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きのうの神さま   著   西川美和

きのうの神さま   著   西川美和


5つの作品からなる
短編集。

「1938年のほたる」
「ありの行列」
「ノミの愛情」
「ディア・ドクター」
「満月の代弁者」





感想     もうすぐ、ディア・ドクターが公開の西川さん。
前回の「ゆれる」は映画はもちろん、小説も大変良かったので、
2作目となる新作小説も、早々と読んでみました。

あとがきによると・・・。
僻地の医療を題材とした映画を作りたいということで、取材を
始めたということ。
すると編集者の方に、取材の支援をするので同じような題材で小説を
書いてみませんか・・・という誘いがあったそうです。
それで今回の小説に至ったとか。
取材は映画の脚本の素材にもなったけれど、
映画の時間軸で語りきれなかった数々のエピソードや人々の生き方を
この本で甦らせたということでした。



小説は、5つの短編から構成されています。
関連性はあまりないのですが、どのお話も丁寧な心理描写と
舞台になる町の情景が美しいです。
前回の映像でも感じられたのですが、文章でも
随所に人物描写の鋭さがみられる作品でした。

人間、負の感情も色々と持ち合わせているわけですよね。
どの章の主人公も、出来事に直面するたびに
色々なことを考え、思ったりしているわけです。
それが実に人間くさく、面白かったです。

また、表紙の写真も素敵です。
これは逆向きなのかしら。
表紙をめくると、同じような写真が白黒であります。
これは表紙とは逆の写真。
なんとも不思議な構成です。


「1983年のほたる」
主人公は小学生の私。
田舎の村に住んでいる。
自分は人とは違うと思っているがよくわからない。
最近、受験のために遠くの塾にバスで行きだした。
村の中では一番だと思っていても外に出れば私なんてそんなに特別でもない。
友だちも村のことも、色々考える。
そんな私が帰るのは最終便のバス。
あるとき、そのバスの運転席、一之瀬時男という人に名前で声かけられる。
私は彼が苦手だった。


「ありの行列」
主人公は若い医師の男。
とある離島にある診療所の代診となった彼。
そこにいる老医師の診察に付き合い
小さな島の医療の現状を知る。


「ノミの愛情」
主人公は私。
もと看護師。
夫は市民病院に勤める小児心臓外科医。
非の打ちどころのない医師だが、
私にはいろいろと不満がある。


「ディア・ドクター」
父が倒れた。
父は大学病院の外科医だった。
入院した病院にあの人=兄は来るのだろか。
兄のことを思い出す私。



「満月の代弁者」

男は今日での僻地の医療現場を離れる。
彼の変わりに年配の新任医師はすでにやってきている。
引継ぎをするために一緒に、患者のもとを訪ねる男。
男は色々なことを新任医師に語る。



「ディア・ドクター」での兄弟と父親の関係。
「ノミの愛情」での妻と夫の関係が
面白かったです。

以下・・「ノミの愛情」の本文から

私の未知数はあの夫に全てやってしまった。
あの虚勢と誇りとを混同し続ける夫の、高潔な生業と、品行方正な人間性とを、
守るため、それが世界のため。
けれど未知数を放棄した代わりに、そんな完全無欠の男が家族に見せるだけのほころびを、
かつて私は確かに、舌の先でなめて喜んでいたではないか。
小さな秘密の急所に歯をあてて、大きな大きな象の背中に乗っているノミのような
気分だったではないか。

(本文、111より)

これは、家庭に入った主婦の立場からみれば
わかると言う思いと同時に、女性の恐さも感じるお話。
らせん階段をどんな思いで、磨くのか想像すると恐いです。
冒頭で、お隣でかっているレトリバーの犬、トーマス君が登場し、
彼(犬)の人生と自分を重ね合わせているところも、面白いです。


映画はどんな感じでしょうか。


キノウノカミサマ
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ゆれる   著  西川美和

ゆれる    著  西川美和


東京でカメラマンとして活躍する弟。
実家とは長い間疎遠になっていたが
母親の一周忌に久しぶりに帰郷する。
実家は家業のガソリンスタンドを父親と兄が経営している。
性格が違う兄と弟。
そして実家のスタンドでは幼馴染の智恵子も働いていた。
智恵子と弟は東京に出る前に関係があった2人だ。
そんな3人が、蓮美渓谷へと出かけ、そこである事件が
起こる・・・。


感想  今年の邦画はこの「ゆれる」が一番の話題作
でしたよね。映画を観た方の評価も高く、
私も是非とも観たいと思っていた一本でしたが
時間がとれず断念・・。
ということで・・・本の方を先に読んでみました。

あ~~~やっぱり映画が観たかった・・。
本を読んだ方がいるとしても
映画→原作本というパターンがきっと多いでしょうね。

映画を観ていない自分でも
頭の中に描かれるのは、弟=オダギリージョーさん 兄=香川さん
の図式です。
そういうイメージで本を読んでいたのですが
まったくといって違和感は感じませんでした。
まさに、適役であると本を読みながらも
感じていました。
香川さんに関しては「故郷の香り」の演技が
印象的でしたので、そんな雰囲気をかもし出して
いたのかな・・。これはもう観て見ないことにはわかりませんね。

本は登場人物それぞれの独白という
カタチで進められます。

  第一章   早川猛のかたり
  第二章   川端智恵子のかたり
  第三章   早川勇のかたり
  第四章   早川修のかたり
  第五章   早川猛のかたり
  第六章   早川稔のかたり
  第七章   早川猛のかたり
  第八章   岡島洋平のかたり

 早川稔と早川猛が兄弟です。
 智恵子が問題の女性。
 早川勇はこの兄弟の父親。早川修は勇の兄。
 この修は稔の弁護士でもあります。
 つまり身内である方が弁護をかってでるのです。
 最後の岡島洋平は稔のところで働く従業員ですね。


人間関係はそう複雑ではありません。
語りも↑のように同じ人物が何度も出てきますので
とくに混乱はしません。

同じ出来事でも
それを感じる人物が違うことで
とらえ方が色々です。
人の心はその人自身しかわからないものです。
当たり前のことですが
こうやって、見せ付けられると
人間のもつ心の複雑さを思い知らされます。

ゆれる・・・という題名が示すとおり
全ての人の心が、相手の言葉&行動を受け、
揺らいでいきます。

とにかく心理描写が見事です。
裁判過程における証言内容も
実に読み応えがあります。
検察も弁護士も私などが思いつかない質問で
被告をせめていくのですね。
これは、プライベートさえも赤裸々にするような
感じで、質問された方はたまったものではないと
思います。

兄弟だからこそ、
踏み込めない一線もあったのだろうと
思います。
自分の殻を破りきれない兄。
生真面目で親にいい子とレッテルを貼られた兄にとっては
自由奔放に生きる弟はどのように映っていたのでしょうか。
1人閉鎖的な田舎で暮らし、
このまま・・・埋没することへの恐れを
どこかで感じていたのでしょうか。
成功をおさめた弟を誇らしげに思う一方で
どこか妬ましい気持ちがなかったのでしょうか・・・。
そして弟の方も・・・
いつも自分を守ってくれた兄に対して、
尊敬の念の他に別の感情が渦巻いていたのではないでしょうか。

性格が違う物同士といえども
持っている感情は同じであろうと
思います。それがストレートに表面に出る人と
うまく埋没させて取り繕ってしまえる人がいるだけの違いかも
しれません。

文章を読みながら、その状況はリアルに伝わってきます。
それぞれの心の揺れも・・・明確に・・。
感情が行き違いになっているだけと信じたい・・

後半で幼少の頃に撮った八ミリビデオを観る場面が
あるのですが・・そこはなんともせつない思いに
なりますね。
映像で観たら泣いていたかも・・。

すれちがった心の修復は
難しいかもしれません・・。兄弟という関係が
ときに重く感じられるときもあろうかと思います
でも
ラストに一途の望みをかけたいと
思わずにはいられません。
兄弟だから・・きっとわかりあえると信じたい・・・


兄はあれからどうするのでしょうか・・。

バスはあれからどこに向ったのでしょうか・・

それからの物語は
読み手が想像する世界でしかありません。


余韻がいつまでも残りますね・・。


本としても素晴らしかったです。

映画が早く見たいな~~




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