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友罪   著  薬丸  岳

友罪   著  薬丸  岳


町工場に同期入社した
益田と鈴木。
当初人付き合いが悪い鈴木だったがしだいに益田には心を開き始める。
また事務員の藤沢美代子は、過去の男にゆすられている現場で鈴木に助けられたことから
彼に対して好意を持ち始める。
そんなある日
益田は、元恋人のアナウンサー・清美から
13年前におきた黒蛇神事件についての話を聞く。
それがきかっけで
当時起きた残忍な少年犯罪を調べていく益田は
その事件の犯人である「青柳」が、同僚の鈴木なのではないか?と思い始めるのだが・・・。








感想


薬丸さんの新作。
社会派の作品の多い薬丸さんですが
今回のテーマは「親友が犯罪者であると知ったらあなたはどうするか・・・」という
非常に興味深いテーマ。

この犯罪だけど
これが、某事件を連想させるもの。
本では黒蛇神事件として扱われているけれど
読んでいると、ああ・・実際に起きたあの神戸の事件のことだと誰もがピンとくるのよね。
少年だった犯人は
いつかは社会に出て
普通に生活するんだろうな・・・っていうことは
当時からわかっていたことだから
こういった物語が作られるのは
不思議ではなかったけれど実際目にすると驚いてしまうよね。
今までこういった題材のものを読んだことがなかったので
正直、どういう展開になっていくのかというのは
興味深いところではあったかな。
でも
テーマとして難しいから書く人も手を出しにくいってところがあったんじゃあないのかな・・・・って思うのよね
どういう風にまとめるかというか、
迷いどころではあると思うので果敢にも挑戦した薬丸さんは凄いと思うな~~~。



どうして犯人がこんなことを起こしてしまったのか・・・そういう
加害者の心の闇に迫るような形で物語を作り上げるっていう手法もあるけど
今回は
犯罪の動機付けの部分はばっさり排除して
上にあげたテーマだけに絞っているところが
良かったと思うの。
焦点が絞られているっていうか。
この犯罪に動機付けすると、やはり納得いかない、理解できない部分が多くなると
思うけど(普通理解できる思考ではないと思うから)
こういう風に身近にいる人が
犯罪者だったらどうする・・・という部分だけなら
非常に入り込みやすいと思うのよね。


で・・・やっぱり
読み始めてすぐに思ったのは(そもそも、テーマ性を知っていたので
この鈴木は、元犯罪者だとわかっていた)私は無理だろうな・・・・っていうこと。
出会ったときは、過去を知らなくて、波長が合っていい人だって感じたとしても
過去のことがわかれば、一歩引きたくなる心情っていうのは
誰もが感じると思うんだよね。いやいや、やつは今はいい人だから、変わらず付き合うよ・・・って
即答できる人は稀だと思うよ。ましてこの場合、犯罪が犯罪で・・・・。
犯罪の種類でわけ隔てするわけじゃあないけれど、
所謂猟奇殺人で、何の罪もない人を、無残な状態で殺したという
センセーショナルなことをしでかしたとしたら
その人と付き合うことが、怖いって思ってしまうのは致し方ないと思うわ。
少年だからどうの・・・ということではまったくないと思うしね。
被害者の心のうちも考えると
年月もたっていることだしとか
社会復帰を目指しているから・・・とか
そういう部分を頭にいれていても
容易にその人自身を受け入れられることはないと思うんだよね。
まして、友として・・なんて
到底無理。
それが世間一般の意見だと思うよ。

人を殺めた人と付き合う・・・・・、
神じゃあないし、自分としてはやっぱり無理な次元だと思っているの。

ただ、小説を読んでいくと
鈴木という人物を極力普通に描いているので(といっても影がある変わりものって感じではあるが)
なんとなく、いい人とまではいかないけれど
そんな酷いことを起こした人には見えないように感じていき
それがそのまま、迷いの気持ちへと変化していってしまう部分があるのよね。
あくまでも小説の中だけなんだという思いが湧いてきて
鈴木がそんな大それた犯罪を犯すような人には思えないので、鈴木の気持に寄り添ってみたくなる
部分も出てきたりする、一瞬ね。
美代子への対応の仕方だけみれば、正義感あふれるいい人じゃないかと思えるし
美代子側からみれば、あんなにも悲惨な過去があるにも関わらず、守ってくれる鈴木は
いい人にほかならないと思えるのよ。
でもそういう美代子を守れる強さというのも
鈴木の過去があってこそ、というのも皮肉ではあるんだけどね。



鈴木の過去を知ったら
付き合えないだろう、
無理だろうな・・という最初の気持は根底にありながらも
時折
気持が、揺れたりもする・・・・
そういう部分を
引き起こすだけのものがこの物語には
あったと思うな~~~
迷い迷いの答えの出ない
問題を突き付けられたような感じ。
でも根底には
がっしりと
罪を犯した人を受け入れるだけのキャパは自分にはないなっていう
思いが居座っているけどね。


鈴木の周辺にいる、益田の心境然り、
恋人美代子の心境しかり
保護監察の女性の心境しかり・・・・という風に、すべての人の気持が
痛いほどわかる・・・・。
もちろん、鈴木と一緒に働いていた
同僚たちの言い分もなるほどと思ったし
益田の元同僚のジャーナリストの心境も
当然一理ありと思えたりと
終始、うなづくことばかりあったような気がしたわ。



小説に出てくる
鈴木の
周りの人物設定は実に
詳細で
よく練られた小説。



終わり方としては
絶望的な感じではなく
精一杯の誠意を感じる形。
益田が自分を納得できる形で
気持を落ち着かせることができたってことは
これからの益田の人生においては良かったと思っています。
鈴木は
ある日突然
いなくなり
小説の中では最後まで出てこないわけで
その後は気になるところ。
でも
急に懺悔になるとか
罪を償って生きるとか
いう展開だったら
出来すぎかなって思うところもあったので
(というか、そんな単純な結末では片付けられないよね・・)
その後をぼかしたこの終わり方は最善だったのかもしれないよね。
ただ
鈴木がこの益田の記事を読む機会があって欲しいと
なんとなく願う・・・
たぶん、そう思う人って
何人かいるはずだと思うのよね・・・
そういう感情を鈴木に対して
感じてしまった・・・・
そういう自分がいるってことが
不思議でもあったかもしれないな・・・




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逃走   著  薬丸  岳

逃走   著  薬丸  岳




閉店後のラーメン店で、店主が暴行され死亡した。
通報した若者が容疑者としてあがるが…彼は逃走。
容疑者の妹、友人たちの心配する中
なぜ彼が逃走するのか
刑事たちもその謎を探し始める・・



感想


あっというまに読める一冊。
容疑者が逃走するのには理由がある・・・
その理由を読者も一緒になって追い求める
そこが魅力の本かな。


容疑者は妹ともに施設出。
どうやらつらい過去を背負ってきたようだ・・


なんと
彼の母親は父親を保険金目的で殺害し、刑務所に送られてしまっていたというのだ・・
妹はその事実を知らない・・・
兄として容疑者は
長年、秘密を守り苦労してきたようだ・・・。


そんな彼なのに…なぜ・・・


なんだかとっても可哀そうな家族でした。
容疑者もあれじゃあ不憫。
だって・・殺した相手は・・



以下ネタバレ

いつか忘れそうなので真実を書いておきます。
殺した相手は容疑者の事実の父だったんですね。
母親が保険金殺人で父親を殺したというのは間違い。
殺したのは
別人だったんです。
つまり別人を夫と見立てて殺した・・・・。
そしてこの殺した人は
妹の実の父親だった人なんです。
この容疑者と妹は父親違いの
2人だったんですね。


容疑者は殺意があって被害者を殺したわけではない。
今まで死んだと思った父親を発見し
問い詰めて争った挙句・・・こんなことに。
感情的になってしまったんですよね。
でも、死んでしまったという事実は事実だし。
こんなことになってしまったけれど
罪は償って前向きに生きて欲しいな・・・とそう思える
物語でした。



読んでいるときは気にならないけど、
あっという間に読んでしまうので
物足りなさは残るかも。
ドラマむきな内容かもしれませんね・・・
できれば、
もっと深いというか
考えさせられるようなお話がいいかな
好みですし。
次回にまた期待



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死命   著   薬丸  岳

死命   著   薬丸  岳


三十代にして財を築いた榊信一。
自身がスキルス胃がんに冒されたことを知り、今まで抑えていた
殺人願望を開花させる。
その榊をおう刑事の蒼井。
彼もまた余命少ない病に冒されていた。
蒼井とコンビを組む若手刑事・矢部、
榊の恋人の山口澄乃。
それぞれがいろんな思いをもちながら
事件にかかわっていく。




感想



一気に読めます。

事件は無差別女性殺人。
犯人はわかっています。
物語は
犯人・・、
彼を愛する女・・・
犯人を追う刑事・・と
そのベテラン刑事と組むことになる若者刑事。
それぞれの視点で
進行していくことになります。



犯人がわかっているので、その謎ときを楽しむことはできません。
が・・・興味わくと言えば
なぜ、その犯人がそういう行為に走ってしまうのか⇒動機付けの点。
それと
犯人と追う刑事が
ともに、余命少ない状態だということです。




殺人鬼、榊と
幼いころから知り合いで
大学時代には恋人だった山口澄乃。
彼女は恋人である耳に障害がある榊信一に情事の際
首を絞められるという体験をさせられる。
どうやら、榊には人には言えない過去があるのだ・・・。
しかし、澄乃はそんな榊を恐れ、実家に帰って結婚をしてしまった・・・。
やがて離婚して再び榊と再会した彼女・・・


というような存在の澄乃だが
彼女が再び傍にいるのに
人を殺すという欲望を抑えることができない
榊はとんでもないと思いました。

なぜそんな思いを抱くのかは
いわゆる動機ですが
後半で明らかになります。


両親からの
虐待です。
悲惨なのは
とくに母親の性的虐待。
気持ち悪かった・・・
実際
そんな性的虐待ってあるのかな・・・
母親と息子の関係において・・・あるかな・・・。
動機付けとしては
もう少し同情の余地のあるような
ものを感じたかったです。
可哀そうな過去だと思うけど
そんなことあるかな…と思える事例だったので
引いてしまいました。




刑事の蒼井。
娘と、息子がいるが妻はすでに亡くなっています。
死に目にも会わずに仕事一筋だった彼に
子供たちの視線は冷たい。
だが、そんな彼に胃がんが再発。
あらためて、死への恐怖も感じ
自分はどう残された日々を送るか考え初め
結果、犯人逮捕に執念を燃やす。



若い刑事の矢部は
刑事という仕事に使命など感じていなかったが・・・
先輩刑事、蒼井と組むことで
彼自身が仕事や家族(親)に対して
成長した考えをもつようになる。




このお話で
面白かったのは
犯人の動機よりも
死とはどういうものか・・・
死んだらどうなるか・・・という哲学的なことを
刑事の蒼井によって
語らせているところかな…と思います。
誰でもが
感じるその感情の揺れを描いていたように思います。
そして
犯罪者もまた
死ぬ瞬間、
迷いや恐れの気持ちを感じて
あらためて
自分の罪に向き合うことができるのかなって思いました


連載時のタイトルは
「死にゆく者の祈り」だそう。
改題されたんですね。


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ハードラック   著  薬丸 岳

ハードラック   著  薬丸 岳




仲間にはめられた相沢仁。
このままでは殺人犯になってしまう。
無実を晴らすため、仲間を探し出そうと懸命になる彼だが・・・



 

感想

「BL」はバッドラック。運の悪いやつでうまく引っかかったカモのこと。
「HL」はハードラック。さらに運の悪いやつで首をくくっちまってもう用なしって意味。

薬丸さんの本。今回も展開が気になるのでサクサク読めました。
彼の作品って、社会的な事柄がいつも題材で
そういうところも気に入ってよく読むのですが、必ずしもいい気分で
読み終わるわけではないんですよね。どうにかならないのか・・っていうジレンマを感じるから。
今回は仕事も家庭からも見放された人に焦点を当てていました。


主人公は相沢仁。
家庭的には不幸。父親の浮気で離婚。その後母は再婚。
その男には連れ子がいたのだが、その子がまた同年代で非常に優秀な子。
比べられ、肩身の狭い思いをした仁。頭もよくなかった彼は、義理の父親から、高校でたら就職しろ・・と
言われてやむなく親の関連会社に就職。しかしそこからは上手くいかない・・・
上司とトラブルを起こし、仕事を辞める。新しい住み込みの仕事をみつけ家をでるのだが・・・・
結局、不況のあおりを受けて、工場を解雇される。
寮を追い出され、今やネットカフェ住民として、その日暮らしの
生活。



そんな彼が、ネットの掲示板に書き込みをしたことから不運が始まった。
「なにか、おおきなことをやらないか・・」


仁の家庭環境、不運な出来事(人がいいのか、だまされやすいようだ・・・)など、
同情すべきことは、いっぱいありましたけど、だからと言って、安易に掲示板に書き込んで
自ら、闇の世界に突入していくことはないのにな・・・と思いました。
だからこんなめんどくさいことに、巻き込まれてしまったんだよ・・・と言いたい気もしますね。
また、仁の母親ももっと仁のことこうなる前に(働きに出る前に)もっと対処してあげたらな・・なんて
ことも考えました。事件が起きてからでは遅いんですけどね。




おおきなこと・・・
仁は、ネットで募った仲間と一緒に、軽井沢の金持ちの家に強盗に入るという計画をたてます。
人は殺さない・・金だけ。
そういうつもりだったのに、計画の当日、物色中に頭を殴られ昏倒。仲間はいず、一人逃げたあと知った真実。
いつのまにか、その家の住人は殺害されていた。3人も!!。
強盗殺人の首謀者になってしまっていたのでした!!

自分は仲間にはめられた!!。彼らを探し出して自分の無実を証明したい。

彼の無実を証明するために
仲間を探し出す過程・・・
そして黒幕は一体誰なのか・・・

そんなところが、物語の注目すべき個所だったように思います。


この仲間たちですが・・
ネットで募ったということで
本名は明かさない。(犯罪を起こそうという人たちの集まりなので本当のことは誰も言うわけないですよね)
あだ名で呼ぶあうのですが、ジンやバーボン、ラム、テキーラ、ウォッカというお酒の名前。
おお~~コナン君みたいです…笑
その中で
ラムが言うまるで、映画の「レザボア・ドッグス」みたい・・っていう言葉が印象的。
映画自体、観ていないのが残念だわ。
ラムはレンタルビデオが好きっていう設定なのよね。

ここは伏線にもなっていると思うな・・・
なぜ映画ばかりみていたのかってね。
のちに彼女(?)の口から
「ユージュアル・サスペクツ」という映画の名前も出てくるんだけど。
こちらは、映画自体を観ておいた方が絶対なるほど~~と思わせるかな。
仲間の中に、ウォッカ→鈴木っていう足を引きずった男がいるの。
映画でも、黒幕は誰だ・・・ということになっていて、実際
足を引きずった男が黒幕なの。それを持ち出して
鈴木がこの事件の首謀者じゃないかっていう・・・案がでるわけ。
映画では、いかにも被害者ぶっている男が黒幕だったからね。

そういう、ちょっとした、知る人ぞ知るネタも映画好きとしてはうれしかったかな。


で・・・・黒幕の正体は、
最後にきっちり判明。
これはちょっと現実的には無理があるかも。
読んでいながら
うすうすは検討ついてくると思うのよね。
その行動でね。

ただ、現実的には
一緒の時間結構過ごしているから
早い段階で
○○は、○である・・・という事実は判明するんじゃないのかなと思いますね。
そうそう。。隠せないと思うから。

でも黒幕○○の過去も壮絶。
同情すること多しです。


仁の話をしっかり聞いてくれた刑事さんには
感謝ですよね。
刑事にまで見放されたら
救いようがないもの。
刑事さんが、彼の話を真に受けてくれたから
ことがいいように進んだんだと思うな。


闇の住人の
森下。
一瞬、仁のこと親身になってくれているのかと思いきや
やっぱり悪でした・・・
信用しちゃあ・・いけないんだね。


誰が一体本当のことを言っているのか。
ワクワクしながら
読むことができた本でした。
しかし携帯を他人名義で使っていると
いろんな名前が出てくるから混乱するね・・・


世の中
いろんな悪が潜んでいることを痛感。


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刑事のまなざし    著  薬丸  岳

刑事のまなざし    著  薬丸  岳




夏目刑事が扱う
7編の事件。




感想


薬丸さんの短編集です。長編のイメージが強いのですが短編もさすがに
上手いです。しかし、どれもかなり重めの事件ばかりですので
読んでいて、どんより・・・してしまいます。
実際、殺人事件というものは気持ちがいいものではないのはわかりますが・・・。
やるせない気分になってしまうんですよね。



「オムライス」・・・内縁の夫が殺された。台所にはオムライス。
          犯人は息子なのか?
「黒い履歴」・・・クレーンゲームを得意とする男。そして彼の姉。
過去の罪のために男はなかなか就職できずにいた。そこに起った殺人事件。
         被害者は、姉の子供の友達の父親だった。
「ハートレス」・・・ホームレスたちを巻き込んだ事件。
「傷痕」・・登校拒否を続ける女子高校生。きっかけは痴漢事件だった。
「プライド」・・女性はボクシングジムにかよっていた。強くなるために。
        被疑者と加害者には誰にも言えない秘密があった。
「休日」・・夏目は大学の同級生に息子の相談を受ける。息子は犯罪に手を染めているのではないか?
「刑事のまなざし」・・夏目の娘を襲った通り魔事件。犯人がついに判明する。




全部で7編。全部の物語に絡んでくるのが夏目刑事です。
夏目刑事には過去があります。もともと刑事だったのではないのです。
自分の身内を襲った事件。そのために刑事に転職したのでした。
犯人を捕まえるため…復讐したい・・・そんな単純な気持ちだけではないのかもしれません。
普通の感情ではなかなか刑事という職業を全うできないと思います。
毎日、毎日、気持ちが塞ぐような事件ばかりに遭遇するわけですし、
被害者とも当然接して行かなくてはいけないのですから・・・。
自分と同じような被害者と接するんですよ。
できないですよね・・・・・・普通は。
そんな夏目刑事の葛藤ですが
わりと抑え気味。もっと感情的になってもいいんじゃないのかな・・・と思うくらい
冷静でした。それは年月がたってしまったということもあるのでしょうか。
でも、目の前にいるのは、
事件の後遺症を抱えている自分の娘なわけですよね。やるせない気持ちばかりです。
最後の
「刑事のまなざし」で、夏目刑事の娘を襲った犯人が判明するわけですが・・・
やっぱり、加害者には同情できません。
どんな事情があろうと・・・・やっぱり、許すことはできないだろうな…・・自分だったら。



7編の中では
最初の「オムライス」が一番後味が悪かったです。
そういうことか・・・・という事実が判明してからの
どんより感が・・・はんぱなくすごい。
こんなことあっていいの?と。。。問いかけたくなりました。


また
「黒い履歴」で描かれる性犯罪。
これもまた
気分的にどんより・・・。



犯罪のない
世の中になって欲しいと願わずにはいられません。


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悪党     著  薬丸 岳

悪党     著  薬丸 岳


 主人公は佐伯修一。彼は元警官だったが、不祥事を起こし失職。今は「ホープ探偵事務所」で探偵の仕事を
している。所長は木暮。木暮も12年前までは県警で働いていた同業者だったが、佐伯が警察官になったときは
すでに辞めていたので面識はなかった。
ある日、初老の夫婦から人探しを依頼される。自分たちの息子を殺して少年院に入った、坂上洋一の出所後の様子を
調べて欲しいと。さらに、見つかった折には、坂上を許せるか許せないか、その判断材料を
探して欲しいと・・・。
調査に中で判断に迷う佐伯。実は、彼自身もかつて身内を殺された犯罪被害者遺族だったからだ。





感想   

薬丸さんの新作。
今回は、今までとはちょっと違う構成。
一話完結の7つからなる連作短編集です。
そのすべての主人公に探偵佐伯。彼が依頼される事件の加害者の調査過程で
繰り広がられる人間模様を、彼自身がどう感じ、どう迷い、どう苦しんでいくのか・・・が
語られています。初の一人称小説です。

今まで長編小説で、ぐ~~と唸らせるものばかりを読んできたもので
今回の手法には正直あれ~~と思うところもありましたが、
よくよく読み進めていけば、各章の中では、佐伯自身の事件の背景も小出しに描かれていたり、
さらには、最初の章で登場する坂上&その恋人の遠藤りさが
物語の最後まで絡んできたりと、面白く見せる要因をところどころに散りばめさせており
短編でもさすがだな・・・と思わせます。
そしていつもどおり、
あなたならどうする・・・という重い課題を、どの章でも、読み手に投げかけます。
期待通りの出来栄えでした。



基本的には依頼された事件は一話完結です。
様々な犯罪形態が語られます。
幼児虐待や、詐欺事件、強盗殺人事件などなど。
その事件一つ一つとってみても充分物語が始まりそうな題材です。

犯罪被害者遺族は
何をもって、犯罪者を許そうと思えるのか・・・。


そもそも、許すということはどういうことか。

まっとうに生活をしていればいいのか・・・。

どのような誠意を見せればいいのか。

また、犯罪者は、どうやって罪を償えばいいのか。

一度罪を犯してしまった人はどうやっても、更生できないのか・・

憎しみに炎は消せないのか。


印象的なのは・・・


第三章の『形見』の犯罪者の、身内の心理・・・・。


結構きつかったです。

「あなたはひとりではない」
と最後に加害者の身内が、語りかけ部分では
涙ぐみそうになりました・・・。


第四章の「盲目」の意外な結末。


「あなたはずるい人間だ」

この言葉も忘れられません。
加害者はどうやって被害者に罪滅ぼしをするのか。
この章のお話では、やっぱり私も↑のセリフと同様な言葉を
相手に投げかけてしまうと思います。



第5章の「慟哭」・・・所長の正体に驚き。

それまで嫌な印象だった所長の別の面がみえて意外。

「自己満足ですね」・・・調査依頼者の弁護士に向かって
所長が発する言葉です。

たとえ、犯罪者がその後更生したとしても、被害者の心は癒されない・・・
それを痛感した章でもありました。



第六章の「帰郷」・・・調査過程で知り合ったキャバ嬢、冬実の過去。


冬美の過去には驚きです。
正直、ここまで主人公に絡んでくるとは思いませんでした。
そして、同時に描かれる佐伯の家族。
主人公、佐伯が実家の父を訪れ
そこで父が発する言葉・・・

「いつでも笑っていいんだぞ。おれたちは絶対に不幸になっちゃいけないんだ」

辛い・・・辛いです。
父親の気持ちが痛いほどわかります。


第7章の「今際」・・・・この章では最初に出てきた坂上という青年が再び登場します。


彼は被害者の家族によって、刺され、
今は半身不随の身です。きかっけは佐伯の言葉でもあるのですが。

その坂上が、面会に来た佐伯の発する言葉です。


「だけど、悪党は自分が奪って分だけ大切な何かを失ってしまうこともちゃんとわかっている。
それでも悪いことをしてしまうのが悪党なんだよ」
「死に際にでも、自分が奪ってきたものと失ってきたものを天秤にかけてみるさ」


加害者の心理ですよね。
これも複雑です。



そしてエピローグ。

救いがあります。
幸せがみえます。

佐伯が本心から笑顔を取り戻せる、予感を感じます。


冬実も幸せになって欲しいわ・・


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天使のナイフ   著  薬丸 岳

天使のナイフ   著  薬丸 岳

夫・桧山貴志 の妻は4年前13歳の少年達に惨殺された。
それも生後五ヶ月の娘の目の前でだ。
今は落ち着いた生活を送っている桧山だが、
過去の事件は心に深い傷を負わせた。
そんなある日、事件にかかわった少年の一人が殺された。
妻の事件の際、少年ということで刑をまぬがけたことから
桧山は彼らを殺してやりたいと口走っていた。
そのこともあったからか・・、
今回の少年殺人の犯人として、桧山は疑われることになる。


少年たちは、妻の事件以後、どのように過ごしていたのか。
桧山は少年達の事件後の姿を追い始めた・・・。
そして信じがたい真実が・・



感想   唯一読んでいなかった「天使のナイフ」に挑戦しました。
最近、文庫化されたようですが、私は、図書館で借りたので、ハードカバーのやつで。
原作者の顔写真とか、江戸川乱歩賞選考委員会の方のコメントなども掲載されていて
興味深かったです。


テーマは、少年犯罪。少年法をめぐっての、被害者、加害者の立場。
更生とは・・・贖罪とは何なのかを考えていくという
重いテーマです。

今回も読みやすかったです。この小説が
デビュー作ですよね。
私は、専門的なことはわからないし、一読者としての立場でしか見れないけれど、
グイグイ読み手をひっぱっていく魅力がある作品というのだけは
わかります。
読み出したら止まらないという作品を書き上げるのは、すごいことですよね・・・。
このあとの「闇の底」も「虚夢」も同じようなパワーを感じとりました。
デビュー以来、一貫としてそのパワーが衰えないのは
凄い。新作のたびに楽しみにしたいと思います。

とはいえ、社会派の作品なので、現実と対比しながら考えると
ちょっと気が滅入る部分はあります。
面白いという表現はしにくいですよね。
現実にこういった壮絶なことが起こっているからこそ、興味をもつという図式も
悲しいです。
ただ、見過ごしがちなことを気付かせてくれるという意味では
すごく勉強になります。

考えなくてはいけないこといっぱいありますものね。


少年少女が少年法という法律によってその立場を守られる。
加害者の人権を尊重することで
被害者の人権がおろそかになる・・。
読みながら、主人公、桧山の立場が痛々しくありました。
共感できます。被害者となったらほとんどが桧山と同じ気持でしょう。


この小説は最後に、
驚愕な事実が明らかになります。
ミステリーとしても一級品。

まさか・・・あなたが。
あなたまでもが・・・・。


よく練りこまれた作品です。


桧山親子、その過去を背負うのは苦しいかもしれないけれど、
是非、幸せに暮らして欲しいな・・・。
てんし

虚夢   著  薬丸 岳

虚夢   著  薬丸 岳




 通り魔事件で幼い娘を亡くした主人公・三上。
妻の佐和子も重傷を負う。
だが12人を殺傷した犯人は「心神喪失」ゆえに罪に問われることはなかった。佐和子は事件で心にも大きな傷を受け、2人は離婚してしまう。4年後、三上は佐和子から「犯人の男を街で見た」との電話を受ける。物語は一方で、犯人・藤崎とキャバクラ嬢・ゆきをめぐっても動いていく。





感想  『天使のナイフ』では少年犯罪(未読)
第2作『闇の底』では子どもに対する性犯罪(感想UP)と常に社会事件にかかわるストーリーを
発表してきた作者の新作。
重いだろうな~~と思いながらも、読みたい衝動にかられて予約。
今回は、刑法39条を題材にしたストーリー。つまり精神疾患者の犯罪行為についてです。
刑法では、心神喪失者の行為は、これを罰しないということになっております。
私たちが現実の事件に直面するたびに、こういった言葉
聞くこと多いですよね。
誰でもが、興味深いと感じることだと思います。


ただこういう精神的な病を扱った作品って、都合のよいホラー的な展開なったりすることも
ありますよね。でも、この作品は違います。前作同様、さすがですね。
よりリアル感を感じさせるべく、綿密な取材と、知識をもって
仕上げたという印象。
読み手に、先が知りたいという思いを最後まで
持たせた・・・という感じで、すっかり入り込んで、私にしては珍しく半日で読破して
しまいました。展開もわりと速いし、場面がいくつかにわかれ、同時進行で進んでいくといく
ので、飽きることなく、読みやすいのです。


 まず、冒頭の雪の日の公園での
これは衝撃的で、強烈。
淡々と描いているだけだけど、実際その場に遭遇したかのような錯覚さえ感じさせられるほど
詳細な描写で思わずゾ~~~と背筋が寒くなる思い。
やはり、奇抜なホラーよりも、こういった、現実的にありえるだろう事件の方が
数倍恐いです。
現に実際、起こっている事件も想像しましたしね。


小説の中に出てくるのですが
三上は、精神異常というのはどういうことをさすのか。
正常と異常の境目を第三者がどこまで判定できるのか。
そもそも、人を殺すという行為自体がいかなる状況であろうと
異常ではないのか・・・という様々な疑問を訴えます。
私たちも主人公に共感を持ちながら
読みすすめていくことになります。

そういえば、作品中の医者が言っていたとおもうのですが、
子どもを亡くしたものの気持や、ガンになったものの気持などは
相手の立場にたって想像しやすいが、精神を患っている人の気持を理解することは
第三者にはむずかしいとか・・・。
観ている幻覚や、恐怖感は当の本人しかわからないことだと
いうんですよね。

病気そのものの理解も、できるようで、色々考えてしまいました。


ミステリー仕立てになっているので
最後は、もう一つの物語、犯人・藤崎とキャバクラ嬢・ゆきの
話もうまく絡んでいきます。


キャバクラ嬢ゆき・・・と
元妻佐和子の秘密というのがこの物語では大きな山だと思うですが
ユキの方は途中で、そういう方向かな・・・・と気付いてしまいました。
ただし、中学生のときの出来事については、わからず、
驚愕でしたけど。違う出来事を想像していたので当てが外れました。


奥さんの秘密については・・・
これ、映画で言えばノートンの「○○の行方」ですよね。
目的は違うのですが・・・。
でもそれも理解できなくはないな~~と思わせるだけのものが
充分に描かれていました。



ラストは重いテーマしては、後味が良かったのが救いでした。
前作の方がかなりドヨ~~ンとした記憶があります。


こういった社会性のある作品を読むたびに
考えさせられることが多くなり、恐い世の中になったものだと思わずには
いられません。こういうことは、なくなればいいのに・・と切に思いますね・。
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闇の底       著   薬丸岳

闇の底     著  薬丸岳


幼女殺害事件のたびに、性犯罪の前歴者が
首なし死体となって発見される・・・
犯人は死刑執行人サンソンと名乗る男・・。
犯人の目的は何か・・。


感想    少女が犠牲になる痛ましい事件。
読んでいてあまり気分がいいものではありませんが、
ミステリーということでどうしても先が知りたくなります。
一気に読むことができました。
犯人として最終的に姿を現す人物。
意外だと思うかどうか・・・。察しがついた方もいるのでは
ないでしょうか・・。私はまったく・・・わかりませんでしたわ。
・そうきたか・・・って!!驚きを感じました。

犯人がわかった時点で
やはり気になるのは動機です。
猟奇的な殺人ですからね。
彼を駆り立てたものが何なのか・・・。
考えてしまいますね。


性犯罪の再犯率は高いと言われます。
更生とは何なのか・・・。
贖罪とは・・・。

重いテーマだと思いました。


犯罪をなくすべく方法は
一体あるのかどうか・・。


自分の中にもサンソンはいます・・・
といった長瀬刑事の言葉は
想像以上にガツンときました。



「天使のナイフ」はこれ以上に評価が高いので
予約して読みたいです。



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