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生皮   あるセクシャルハラスメントの光景  著  井上荒野

生皮
あるセクシャルハラスメントの光景     著  井上荒野

あらすじ(アマゾンから引用)


動物病院の看護師で、物を書くことが好きな九重咲歩は、小説講座の人気講師・月島光一から才能の萌芽を認められ、教室内で特別扱いされていた。しかし月島による咲歩への執着はエスカレートし、肉体関係を迫るほどにまで歪んでいく--。

7年後、何人もの受講生を作家デビューさせた月島は教え子たちから慕われ、マスコミからも注目を浴びはじめるなか、咲歩はみずからの性被害を告発する決意をする。


感想

面白かったです。
この手の話題は、かなり前から世間でもあったけれど
最近は特に、声を上げよう・・・という方向性が強まってきているように感じます
表沙汰になるケース多し。そういう流れ、良かったなって思っています
これは、女性でなければ、わからない感覚だし、もっともっとクローズアップしてもらいたい
話題だなって思います。

この本、登場人物の心理描写が詳細で、入り込みやすかったです。
いろんな立場の人がその章、その章の主人公としてその思いを語っているので、物事が
多方面から見えてきたと思います。

第一章 現在→柴田咲歩(結婚して柴田。夫と二人暮らし)、月島光一(小説講座の先生)
第二章 七年前→月島夕里(月島の奥さんね)、九重咲歩(旧姓ね、柴田は結婚後の名)

第三章 現在→
三枝真人(奈緒の彼氏。大学生)
加納笑子(月島講座の生徒) 
柴田俊(咲歩の夫)
小荒間洋子(月島講座のかつての生徒で、今は作家として成功) 
月島光一
柴田咲歩
池内遼子(俳句の会のメンバー)
月島遥(月島の娘)

第四章 二十八年前→月島光一

第五章 現在→柴田咲歩


という、構成。

途中の章で描かれる
俳句の集団。師と仰ぐ、おじいさん。気持ち悪いです(笑)
その取り巻きたち。ハーレム化になっている状態でも、その取り巻き立ちは、違和感もある状態だと
感じていない雰囲気。おかしいです。カリスマ的な存在の方に、心酔するのはわからなくはないけど
それと体は別だと思うのですが。それを望む感覚は理解不能。

月島光一についても、気持ち悪いです。
あの考えかた→相手も同意しているとか、相手の才能を伸ばしてあげたいから、こういう行為をするという考え方

まったくもって理解不能。

ただ、柴田咲歩が、7年経っても傷がいえないということと
暴力や拉致されたわけでもないけれど、嫌という気持ちはあったけれど
誘われて、関係を持ってしまったという気持ちの流れ、経緯については、理解できる部分はあります。
自分の意志でいったんじゃあないか…と言われる部分でもありますが
そのときの自分は普通ではなかったという心理状態。一種の洗脳状態みたいな感じなのかな
その感覚は理解できます

別に経験があるというわけではないです(笑)
そういうシチュエーションになったことはないので。弟子と師という関係性ね。
でも女性だからか、その言いようのない圧力というものかな・・・それはわかるような気がします。

こういう小説、男性の感想も読んでみたいです。
あと、やっぱり、男と女で、体の仕組みもあると思うけど、考え方とかとらえ方がそもそも
大きく違うんじゃあないのかなって思ってはいます。
もちろん個人差はあるけど。

表紙が漫画っぽくて
副題もついていて、副題いらない?・・・って思う部分はありました。
前作
「あちらにいる鬼」で、作家と愛人と妻との関係を描いていましたが
その作家さんも確か、複数の弟子に、慕われていたんですよね、慕われるというか、関係もあった。
男の人ってなんで、そういう風にしたいのかな・・・っていうのは
理解不能なところではありますね、やはり。
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(アマゾンより画像引用)

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あちらにいる鬼  著   井上  荒野

あちらにいる鬼  著   井上  荒野



人気作家の長内みはるは、講演旅行をきっかけに戦後派を代表する作家・白木篤郎と男女の関係になる。
一方、白木の妻である笙子は、夫の手あたり次第とも言える女性との淫行を黙認、夫婦として平穏な生活を保っていた。
だが、みはるにとって白木は肉体の関係だけに終わらず、〈書くこと〉による繋がりを深めることで、かけがえのない存在となっていく。
二人のあいだを行き来する白木だが、度を越した女性との交わりは止まることがない。

(アマゾンより、あらすじ引用)


感想

あらすじ、どおりの、妻と愛人とその男との関係性を描いた作品。
著者の、井上さんのご両親と&瀬戸内さんの、こと・・みたいですね。
小説なので、フィクションの部分ももちろんあるのでしょうが、ほぼ事実通りなんでしょうね。

不思議な関係性ですね。
どちらの立場においても、なかなか共感しにくいし、自分なら、絶対に
そういう状況下に身を置いていたとしたならば、たぶん、その男との、関係は続けられないし
感情的にも抑えられないし、修羅場を迎えてしまっているだろうなあと、想像。

この白木っていう男が、かなり魅力的なんだろうね。
私には良さ・・というのはよくわからないけど。嘘ばかりつく・・・という男・・・の。

長内みはると、妻の笙子の、それぞれの心情が丁寧に描かれていて
その思いというのは、十分に伝わってきました
奥さん、立派よね。  そういう女たちを悩ませていた男って、なんとも、罪づくりだよね

後半、白木ががんで亡くなって
奥さんも病に伏して、亡くなってしまう。
笙子の最後の語りの章は、涙なくして、読めなかったな・・・あ。

そして、瀬戸内さんも亡くなって。

そこまで深く愛せる人がいたという、人生もまた
うらやましくもありますね
人生いろいろだな

映画だと白木は、トヨエツですね
なるほど~~

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(アマゾンより画像引用)

切羽へ   著  井上荒野

切羽へ   著  井上荒野


直木賞受賞作。

セイの勤める学校へ男性教師が赴任してきた。
夫がいるセイの心が微妙に変化していく・・・



感想   面白かったです。直木賞という言葉で手をとった作品。
恥ずかしながら、作者も今まで知らなかった方でしたけれど、
とっても面白く読むむことができました。

本を読み終ったあとに
この作品が書かれた背景や作者の経歴を調べ、
なるほど・・・・と思い当たる部分を多く感じました。

そしてもう一度読み返したりして・・・・・・笑
文章に隠された、深い思いをもう一度確認したいという思いに駆られるのですよね。

意味深な部分もあるのでどう推測していくかが読者の読みにかかっているかな・・・って思います。
想像力もかきたてられます。

主人公のセイの心情が中心ですので、女性としては共感できる部分も多くあります。
何故惹かれるのかは別にしても(そこは主人公にしかわからない部分だけど)
心のざわめきの過程が
非常に綿密だな・・・って思うのです。



・・・このお話、2人の間(セイと、東京から来た石和との間)には
性的な行為は何も起こらないのですよね。
抱擁もキスもなし。
唯一、・・・保健室に足の怪我で石和がやってきて、その処理をするシーンでは
触れていましたが。
そのときの会話が月江(同じ島に住む女性)と寝たかどうか・・・です。
ここ、会話の内容だけ読んでいるとなんていうことはないのですけれど、
お互いの心にはもっと複雑な思いが湧いているのかな・・・と想像できるような
気がしてとっても印象的なシーンでした。

こんな風に表面的に何も起こらない小説ってもしかしたら初めてかも。
でも、行為がないにもかかわらず、
文章表現はとても艶かしいです。

「そんなとき私は、自分が卵の黄身になったような気持ちがした。
たとえばマヨネーズを作るとき、白身を分かつために、殻と殻との間で注意深く揺すられる卵の黄身」(3ページ)
↑の表現がすごく印象的。女性的だなって感じました。

<舞台は、父で作家の井上光晴が故郷と語った長崎県の炭鉱の島・崎戸>・・・読売記事より

本文には舞台になる島の名前、場所ははっきり
書かれていないのですが、↑のような設定のようです。
だからキリストの像なのですね。方言もその土地を象徴しているのでしょう。


2008年の読売の著者のインタビューから・・・・・
<結婚したばかりのころ。最愛の男性と暮らす幸福感と安心感の中で、「いつかこんなに好きな夫を愛せなくなる日がくるかもしれない。ふとそう思ってこわくなった」。その思いが作品の根底にあるという。>

↑これを読んだ時、結婚したてですぐに思ってしまうなんて・・・と驚き。
でもたしかに、一生同じ強さで愛し続ける関係というのは自分だとしても
無理。ただ愛せなくなるとは思ってはいないな・・。そこに別の愛が生まれると常々思っていますけど。
そりゃ、出会ったときと同じ情熱でというのはちょっとね。
おそらく多くの人はもっと落ちついた愛着のようなものを夫婦間で作り上げて
いくのではないかな。

最愛の夫がいるのに
別の人に惹かれてしまうということ。
夫が嫌いなわけじゃあなく、その愛情とは別の所で
まったく別の感情が生まれてしまうということ。
・・・・・そういう精神的な不倫とでもいいましょうか。
やっぱり面白いです・・・・笑


対照的に出てくる月江さんは、肉欲バリバリで思ったことはすべて行動に
移し、また発言もする・・・。
だからといって、気が多いわけでもなく、「本土さん」を一途に愛しているわけです。
自分に嘘偽りのない生き方の月江さんは
魅力的でさえ感じます。


小説では、主人公セイが石和に惹かれる
これ!!!といった、きかっけも、理由付けもありません.
正直、読んでいる限り、夫は素敵な男性と思われ(いつも妻を気遣い、愛し、大切にしていてくれる様が読み取れる)
るのに、何故っていう疑問さえ持ってしまいます。
でも、人が人に惹かれるのに
やっぱり理由なんかない・・・・というのを示したかったからこそ、こういう設定なのかな
と・

2008年の読売の著者のインタビューから・・・
<石和の人物像も、小説誌連載時から大きく書き換えた。「連載中は、セイが好きになる理由が必要だ思ってたからもっといいやつだった。でも、理由がなくても人は人を好きになる。好きになるってそういうことだと思って……」>

↑ああ・・やっぱり、そうなんだ。
確信犯的に設定していたんですね。

連載中の部分も読みたかった気がするけれど・・・。
逆に石和のほうからも、自分を好きだという光線を発していたのかもね。
それを察したからこそ、惹かれたということもあるし・・



トンネルを掘っていくいちばん先を、切羽と言うとよ。
トンネルが繋がってしまえば、切羽はなくなってしまうとばってん、
掘り続けている間は、いつも、いちばん先が、切羽」 (195ページ)


↑これで、題名の意味がわかり、ハッとしました。
それまでは、どういう意味かわからなかったから。
意味も深く、素敵な題名ですよね。


「あの人の奥さんのことを化け物みたいって思っていたけど。
あなたも妖怪ね。妻って人種はきっとみんな妖怪なのね。遠慮してよかったわ」
(198ページ)

妻は恐いというのは実感としてわかるかも。


夫も月江もあのおばあさんも、
セイの気持ちはわかっていたということなんですよね。
特に夫・・・・
すごく深い愛情じゃない?
感情にさまよう妻を、攻め立てることもせず
静かに待っていたということでしょ。とはいうものの出張もなにげに早く帰ってきたし。
夫は夫で色々思うこともあったんじゃないのかな。
そこら辺は推測するしかないけどね。


最後のシーン・・・印象的でした。
あの、石和さんが残した木切れのクルス。
そしてセイのお母さんがお父さんのプレゼントしたのはマリア像。
その対比もなかなか・・・

う~~ん、映画的なお話ですね。


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