手紙 著 東野圭吾
武島直貴の兄・剛志は、
弟を大学に入れてやりたいという思いから強盗殺人を犯してしまう。
判決は、懲役15年。
それ以来、直貴のもとへ月に1度、獄中から手紙を送ってくる兄。
直貴は、犯罪を犯した兄のため、、進学、恋人、就職と、
思うようにならない・・。
やがて直貴はある決意をする・・・。
感想 旧作ですが東野さんの本・・今回は↑を読みました。
映画化にもなりとっても有名ですが、全然内容知らなくて・・。
今頃?という感じですが手を出しました。
今回はミステリーではなく、ヒューマンストーリーですね。
今年は薬丸さんの作品をいくつか読んだり、
吉田さんの「悪人」を読んだりと
事件においての加害者&被害者について、色々考えることが多かったように思います。
では、この「手紙」はというと・・。
これは、犯罪者の家族という立場に焦点を絞った作品で
新たな視点で物事を考えることができた一作でありました。
強盗殺人が書かれているので気持がいいものではありませんが
次はどうなるのだろう・・・・どうなるのだろうと・・気になってしかたがない
展開になっています。やっぱり、一気読みしたくなってしまいます。
読者の興味をひきつけるような出来事・・様々な困難が、
主人公には待ち受けているのですよね。
バンドの件にしても、恋人の件にしても
ちょっと作られているな・・・・・・という感はするものの・・(才能があり、もてる感じのする主人公が
現実的にどうかな・・・と)やはり、読みたいという気にさせる持っていきかたはさすがだな・・・と思うのです。文体もわかりやすいしね。
読者としての私は、彼の行く末を心配し、早く、とやかく言われない
落ち着いた生活をして欲しいという願いを終始もっておりました。
ただ、読みながら、もう1人の私もいるんですよね。
犯罪者の身内が自分の傍にいたら
はたして、優しい気持ちで
接することができるかという自問自答する自分です。
綺麗ごとじゃないよ・・・。本当だったらどうよという気持。
彼には静かに穏やかに暮らして欲しいと願いながら
その穏やかな生活を邪魔する本人はまさに自分ではないかという思い。
殺人者を身内に持つ人が身近にいて・・
その事実を知って
普通に接することができるのだろうか・・・
差別することなしに・・・。
正直いって、自信ないです。
そんな善人ではないから。
以前、映画で性犯罪者が近くに住んでいるという設定で
子を持つ親たちがみんな一斉に逃げてしまうという(リトル・チルドレンかな)
ものがありましたけど。あれと同じで
やっぱり、変なことにかかわったらどうしようという不安は
ぬぐいきれないと思います。
例えば、このお話の中で。
主人公が付き合う、裕福な娘の親が彼の身内の罪を知って、
娘と別れてくれと言い出すシーンがありましたが。
当然の成り行きかと思ってしまう自分がいるんですよね。
やっぱり、親としては、最初からそうだとわかっているところには
いかせたくないと。
彼が犯罪を犯したんじゃない・・・、身内じゃないか・・
そう思っていても、どこかでつながっているという不安があるかぎり
人は安心しないのではないかと思うのです。
人一人が犯した罪というのは
それほどまでに、大きな代償を伴ってしまうということですよね。
家族まで巻き込んで。
でもある意味、致し方ないところもあるのかもしれません。
なぜなら、被害者の立場になってみれば、
理性的に対処できないということを、感じることができるから。
あなたは関係ないから・・・別にいいのよ・・・って、割り切って接することなどできないでしょう。
やっぱり、関係者となると、複雑な心境が湧いてくるのが人間でしょう。
じゃあ、まったく関係のない第三者も、
同じように犯罪者とかかわりのある人を差別していっていいのか・・というとまた別問題に
なりますけれど。
そもそも、差別という言葉を使わないまでも、人って、日常生活で
似たり寄ったりしていることってあるような気がするのです。
どういうこと?っていうと答えに困るけれど。
ちょっと宗教的な考えになってしまうけれど、
心が広く誰にでも平等で、疚しさも、不純さも無く、純粋な気持で人と接することって
神様じゃないかとさせ思っているから。
人を嫌ったり、避けたいと思ったりする気持・・そういう気持ちをもったことのない人って
いないんじゃあないのかな・・。
ちょっと話が横道にそれたのでこの本に戻るけど・・。
この小説のなかでね、私は、この兄という人に
同情というか・・そういうものはあまり感じなかったのですよ。
貧乏ゆえの犯罪とか、成りゆき上だったとか、
弟思いゆえの行為とか・・・言いようはありますけど。
結局、自分勝手な判断で犯してしまった罪ですよね。
例えばこれが、正当防衛だったとか・・・自分にまったく非がないのに
トラブルに巻き込まれて犯罪というなら別ですけれど
明確な意志があって行った行動でしょ。
人はね・・殺しちゃ・・ダメなんですよ。ましてや、なんの罪も無い人でしょ?
金のためというのがどうしても許せない・・
そもそも、盗んだ金で学校行かせて、それで良しと考えちゃう
甘さがどうしても許せないところだったのです。
優秀な弟、大学にいかせてやりたい・・・
自分がそういう立場じゃないからいえるんじゃないかと言われれば
もともこもないとは思いますけれど
貧しくても、生活苦でも犯罪者にならない人は沢山いるわけだから
同情はないのですよ。
栗を弟に持っていくために引き返したところで、住人にみつかって殺したって・・・
被害者の立場にたてば、栗があったゆえに、殺されたっていうことでしょ?
もうやるせないですよ・・・そんなことで殺されちゃたら。
そして手紙ですね。
これはね・・・・書かなくてはいられないという気持はわかります。
でも、私はね、最初の頃から、兄はもうちょっ身内に配慮してもいいのではないかと
思っておりました。迷惑じゃないかな。。。とか。
返事が来ないことで何か感じることはなかったのだろうか。
一方的に思いを伝える・・・その気持もわかるけれど、
ことの重大さを考えたら、もっと深読みができたのではないのだろうか。
弟に迷惑かけているんじゃないかってこと。
逆にいえば、そういうところがない分、純粋であるといえるのかも
しれませんけど。自分の気持を伝えることが精一杯であるということ。
周りが見えないということ。そうでなければ、この犯罪は犯さなかったわけですしね。
弟の決断はつらいものだったと思います。
でも・・・彼がその決断によって家族を守っていけるというならば
致し方ないのだろうと思っております。
そういう社会なのだから。
その社会自体を変えていけるのならいいのだけれど、
現実としてそれは厳しいでしょう。
そしてもう一つ。
兄弟でも姉妹でも
家庭を持つとやっぱり、また違ってくると思うのです。
この兄弟はすごくつながり度が濃い関係だと思いましたけれど、
現実の男兄弟って
こんなに濃い付き合いはあまりしないのではないでしょうか。
憧れの関係であろうかと思います。
だからこそ、そんな素敵な兄弟の関係が
途切れてしまうということに
なんともやるせないものを感じるんでしょうね。
ラストの刑務所慰問に関しても、2人の心境が手にとるようにわかる分、
やるせなくなりますよね。
涙を流すというよりも
私は、罪を犯してしまうということは
こういうことなんだよ・・・という厳しさをひどく感じましたね・・。