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君が降る日   著  島本理生

君が降る日   著  島本理生



恋人の死、その恋人の友達との関係を描いた表題作「君が降る日」
英会話教室で出会った高校生に失恋ショックを慰められる「冬の動物園」
青春時代の甘酸っぱい思い出、男女間の友情と恋愛の狭間を描いた「野ばら」


恋愛話、3編からなる短編集。



感想   とっても良かったです。正統派の恋愛小説では
「ナラタージュ」より、こちらの方が好きかも。(ナラタージュは、先生のずるさがいやだった)
この3篇のバランスも良いです。
一番好きなのは「野ばら」です。


「君が降る日」
   題名が良いです。
題材は恋人の死。恋人の死に絡んだ物語というと恋愛小説には
よく見られるパターンなので、どうかな・・と思っていましたが、
作者らしい世界観が垣間見られて、興味深く読みました。
文章が研ぎ澄まされているんですよね。表現が美しいです。
こう、心の中にス~~と入っていく感じ。詩的な文章でもあるんですよね。
女性が、女性の感情を表現しているというのもあるからか、
全体的に柔らかい感じが漂います。
たとえばこんな感じ。

 本文、15ページより
 「夜の闇は体温となり、皮膚となり、声となり、無限に降ちゃんの断片へと姿を
変えながら、いっそ全体像となってくれればいいのに、それはない。
断片では抱きしめることもできない。・・・・」

ただし、痛みはひりひりときいていて、主人公同様
せつなさは募るばかりです。
愛しい人を亡くした時の喪失感というものは、(例え、恋人でなくとも)
理解できる部分ではあるので、同じ世界を共有できると思います。

物語は、その恋人の死から先で、展開されます。
愛する人に死をもたらしたであろう、男友達、五十嵐さんの存在が重要です。
主人公、志保は、彼にかかわることで、過去にしがみつこうとしています。
過去の幸福だった日々への愛おしさが
どうしても、こみあげ、忘れられないのです。
しかし、志保が五十嵐さんに見ているものと、五十嵐さんが志保へみているものとには
ズレがあります。
前半で見せた五十嵐さんの顔と
後半で見せる五十嵐さんでは、印象も多少違ってきます。
後半では彼の、本音、ある意味、ズルい部分が見えてくるんですよね。

結論が出るような簡単な物語ではないので
どこか、ひっかかりを残すような読後感でした。


「冬の動物園」

こちらは、前作の五十嵐さんのキャラとはまた異なった明るめの
男性が登場です。
森谷君。銀のピアスをつけた、ちょっぴり軽めの高校生。
言っている言葉はストレートで、ちょっと戸惑ってしまうところもあるけれど、
もっともなことだと思うことばかりなんだよね・・・。
面白いし・・・。
失恋の痛手を乗越えるには、新しい出会いが一番なのかもと思える
一編でした。


「野ばら」
これは大好きな作品。
せつなさマックス状態で
読むたびに、心が痛くなるお話です。
残酷なのは気付かないこと。
とっても好きなので詳細は避けたいです。
是非、読んでこの目で確かめてみてください。
モチーフとなっている
谷川俊太郎さんの「あなたはそこに」も
読んでみたいです♪

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大好きな作品

みみこさん、こんにちは~。コメントとTBをありがとうございました。
早速やって来てしまいました。。私も「野ばら」大好きです。
「冬の動物園」も大好きなんだけど、やっぱり「野ばら」のあの切なさ。。(涙)
自分のところのレスにも書いたのですが、「あなたはそこに」は谷川俊太郎さんの『魂のいちばんおいしいところ』という詩集に入っています。
田中渉さんが絵を描き、「あなたはそこに」だけ入った本もあるのですが、やっぱり詩集がオススメです。
是非探して読んでみて下さい。
夏休みですね。。うちは一学期新型インフーで休校になったので、まだ学校行ってます、午前中だけど。。
暑い夏、お互い頑張って乗り切りましょうね♪

真紅さんへ

こんばんは♪
いい作品でしたね。
どの作品も心に痛みを感じるような作品でした。
「野ばら」で、引用されていた詩。
一部分だけでもグッときたので
ぜひとも通しで読んでみたくなりました。
<谷川俊太郎さんの『魂のいちばんおいしいところ』という詩集に入っています。>
情報ありがとうございます。探してみます。
せつない詩ですよね。作者自身の体験でもあるのかな・・・
詩もたまにはいいですよね。
そういえば、野ばらでも、映画が出てきましたね。
ライフ・イズ・ビューティフルだったかな。
やっぱり映画好きなのね、と思いました。
夏休み・・・まあ、学校あるのですね。
お休みが短くなってしまうのかな・・。
ここのところ、天気が悪くて、夏★って感じもしませんが
暑くなればなったで嫌だしね。
頑張って乗り切ります~
またね♪

こんばんは。
「野ばら」よかったですよね。
恋でもなく友情でもなくっていう淡い境界線のような関係が描かれていて、
切なくて、とてもいとおしいような気持ちになりました。

藍色さんへ

こんにちは。
藍色さんも野ばらがお好きと聞いて
とってもうれしかったです。
長さもちょうど良かったですよね。
友情と恋・・難しいですね。
こういう話、また読みたいです♪

こんにちは、みみこさん。すっかり秋晴れの気持ちの良い季節ですね?



さて、この作品、みみこさんのブログを読んで、図書館で借りてきました。
今、完読^^


彼女の作品も初めてだし、こんな正統派恋愛小説読んだのも、
すごく久々って感じでした。
どれも素敵な作品だったと思います。
そして、みみこさんも言ってた、表現が美しい、研ぎ澄まされてる。
というのは、全く同感でした。


やはり作品的には、『野バラ』が一番だったのかな・・?
ただ、『冬の動物園」に出てくる、高校生の男の子が
すごく可愛くて・・『失恋しちゃったの・・携帯に今かけたら、
アドレス変わってて・・本当に終わったんだ・・ってきずいた・・』
と涙ぐむ美穂に、『もう、そんな痛いことするなよ・・」と言うシーン。
なぜかジーンと来ちゃって^^
3篇の中では、一番読みやすい感じでコレもすごく良かったかな?


最初の『君が降る日」は、途中まで、すごくせつなくて(どちらかと
言うと五十嵐さんの言葉とか言動に)涙が出ちゃったくらいなんだけれど、
途中からちょっと・・最後まであの感じを通して欲しかったかな?
恋人を失ったつらさから抜けられない志保に対しても、最後まで
誰とも関係を持たずに終わって欲しかったかな?と^^
(ま、小説上、それでは面白みに欠けるのかも?だけれど、、、
恋愛感情のない、ただの男友達と、ラブホテルに行かないでしょ?
と突っ込みを入れたりしてました(笑)


でも細かいことはのけて、全体的に、透明感のある素敵な本でしたね?
作者、島本さんって、じゃどんな人なのか・・?今から調べてみます^^


いつも感想が長たらしくて・・すみません・・

またね^^

ららさんへ

こんばんは。
10月はイベントが多くて何かと大変ですが
ららさんのところはいかがですか・・・・・。
秋といえども、慌しいです。

↑の本、読まれたのですね~~。
うれしいです。
結構好きなんですよ。
この文体が・・

そうそう・・・正統派ですよね。
島本さんは「ナラタージュ」がかなり話題になりましたよね。
こちらも是非、機会があれば読んでみてくださいね。
いろんな感想をもたれると思います。


で・・・こちらの本。
「冬の動物園」も良いですよね・・・。

最初の章に出てくる男の子が
優柔不断な感じがする分、この章の男の子の雰囲気が
余計際立ちますよね。
なかなかいいやつジャン・・・という感じで。


<最初の『君が降る日」は、途中まで、すごくせつなくて(どちらかと
言うと五十嵐さんの言葉とか言動に)涙が出ちゃったくらいなんだけれど、
途中からちょっと・・最後まであの感じを通して欲しかったかな?>


五十嵐さんはね・・・そうよね、最初の印象と後半で
明らかになる事実を知ってからの印象とは
違ってきたかな。

<恋人を失ったつらさから抜けられない志保に対しても、最後まで
誰とも関係を持たずに終わって欲しかったかな?と^^>

うん・・私もね、確かそう思うわ。
辛いのはわかるけれど、流されるまま、ふわふわした感じで
別の方と、気持ちもないまま、そうなちゃうのって
どうも理解しがたい感じがするところもある・・・。
実際そういう状況に自分が陥ったことはないけど(恋人がなくなるとか)
もっと大切にして欲しかったかな・・自分を。


<恋愛感情のない、ただの男友達と、ラブホテルに行かないでしょ?
と突っ込みを入れたりしてました(笑)>


そうそう・・・笑。
それって、イヤだよね。

<全体的に、透明感のある素敵な本でしたね?>

うん・・・そうよね。こういう文章読んでいると
気持ちがいいのよね・・。せつないお話がこう・・・す~~と
心に入ってくる感じ。


<作者、島本さんって、じゃどんな人なのか・・?今から調べてみます^^>


是非~~~。
島本さん好きな人多いよね。
出てくる男の人はいつもやわな感じだけどね・・・・笑

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