悼む人      著  天童荒太

悼む人      著  天童荒太


坂築静人は、新聞の死亡記事を見て
その人が亡くなった場所を訪れている。
その人が、誰を愛し、愛されたかを自分の胸に刻み、その人の存在を忘れないようにする・・・・
「悼む」という行為をし続けていた。
週刊誌の記者、蒔野は、そんな静人に北海道ではじめて出会い、
非常に興味をもつ。
なんのために彼はそんな行為をするのかと感じた
蒔野は彼の家族に接触をはかろうとする。
一方、静人は、旅をする中で、一人の女性と出会う。
夫殺しの罪で刑務所に入っていた女・・・奈義倖世。
出所したばかりの彼女は偶然であった静人の行為に興味惹かれ、一緒に旅をすることになる。
そんな頃、静人の母、坂築巡子は末期癌の宣告を受けていた。
家を離れた静人のことを思いながら、病魔と闘うことを決心するのだが・・・



感想   物語の中心には「悼む人」と呼ばれる坂築静人が
いるのですが、彼にかかわる様々な人物たち(夫を殺した女・彼を取材する雑誌記者・
彼の家族・母・妹・夫・・・など)のエピソードも散りばめられ、
重厚な物語となっておりました。各章ごとに、先ほどあげた人物たちが
主人公となっているのです。
この作品は2009年第140回 直木賞受賞作。(感想書き上げるまで知りませんでした・・・・)
天童さんといえば、永遠の仔。それと、最近では包帯クラブを読んだかな。
どれも考えさせられるお話でした。特に永遠の仔は印象に残りますからね。

あとがきを読んで、この作品にかける作者の思いを知りました。
その思いの強さに内容以上に感動を覚えたところはあるかな・・・・。

まず、誰もが感じると思うことは
やっぱりこの静人の存在。
死者が出た現場を訪ねまわる彼・・・
そして、毎回、左膝を地につけて、頭上に上げた右手を胸へ運ぶ。
「いたませていただきました」・・・・・。
誰もがなんのために?と問いかけ、それは新興宗教か、なにかの儲け話か、と
疑いの目を向ける・・・もっともだと感じました。
彼の行為の出発点が
母親の巡子が語る場面にあります。
彼がどういう幼少時代を送り就職してから
どのようにして今のような道に進んで行ったか・・・。
また彼自身の口からも、本の後半で、同行する奈義倖世の質問に答える形で
自分がどういう気持でこのような行為を行っているのかということが
語られます。
詳しくといっていいほど書かれている、その背景ですが
それを素直に、そうか・・・そういう理由なら仕方がないよね・・・とは思えないところが
あります。
人の死について、彼と似たような思いを感じたからといって
同じように、生活も家族も捨て、悼むというその行為のためだけに生きることは
普通できないと思うからです。むしろ、そういう人が実際いるの・・・と疑います
。宗教的・・たとえばお坊さんとか・・・そのような行為を行っている人はもちろん
いらっしゃるとは思いますけれど、それと静人の行為とはまた違った意味を
もっているでしょう。病死の方はそこには含まれず
あくまでも、事件事故の死者を求めているようにも思いますし。
理解できないのなら、いっそう病気と思ってくださいとも書いてありましたけれど
そんな一言で済まされても、読んでいる身としては悶々としてしまいます。
そもそも、人間って、お利口さんばかりではありません。
完璧な人間ってないし・・。
人間って、どこか自分勝手で
誰かを妬んだり、憎んだり、多少なりとも、負の部分ってもっていると思うのです。
でも、この静人は、生まれは普通人と思えるのに(普通の子供だということ)途中から聖人のような扱われ方をしていきます。果たして、神でもない、人間が神と同じような行為ができるのでしょうか。
そもそも、静人の悼むという行為には、数々の矛盾が生じています。
作品の中でも雑誌記者が問いかけていますが、
自分に都合いいよう、解釈しているのではないかと。方法もやりかたも
自分が満足するだけではないのかと・・・。
それでも静人は確信をもっていいと言い切ります。
それはそれで、本人が納得できるのならいいと認めますが、それを
美化しすぎてしまっている、作品の全体の空気に、イマイチ違和感を感じます。
さらに、後半で、一緒に旅する女性・・奈義倖世に心揺さぶられ
結果、関係をもってしまう静人。
う~~ん、そんな静人にますます、違和感を感じてしまうのは
心が淀んでいるのでしょうか、私・・・・笑
人の死について・・・私は私なりに思うところがあります。
それが、私の思うところとあわず、結果、共感できないことが多かったです。

静人が後半で話す「ぼくはね、甲水さん、奈義さん・・・ときどき思うんです。
そう・・・・ぼくは・・・・自殺をする代わりに、他人の死を悼むようになったのかもしれないなって」
「自分が死ぬ代わりに、他人の死を経験することに溺れていったのかもしれないんです」
(本文・・380ページ)

この個所にはさらなる違和感。
自殺をする代わりに悼むという言葉は、死んでいったもの(そのほとんどが無念の死だと
思われる)にたいして、どうなんでしょう。
じゃあ、君が死んで、この今死んでいる俺を生き返らせてくれよ・・・とまで
言いたくもなるし。自殺したいなんていう思いを感じている人に
死者の気持ちがわかるのでしょうか。
死んだ人に対しての感情は持たないようですが、
死んだ人は、その背景&心の声も聞いて欲しいと持っているんじゃないでしょうかね。


長々と静人の行為に対して書いてしまいましたけれど
他のエピソードについては不信感もつことなく
素直に響いてきたものもありました。



特に彼の母親の話。
死・・そのもののとらえ方については、心に響いてくるものが
たくさんありました。
それゆえ、こういう家族たちを悲しませている
静人に対してよけい、文句が多くでてきちゃうんですよね。

夫殺しの女性の話の中では、そもそも
この夫が、妻に自分を殺させようとさせる行為自体に
理解できないものを感じました。
彼(夫)の考え方には、ついていけないです。
妻…奈義倖世は不幸でしか他ならないと思います。


ラストの母親の死への道は
読んでいてつらかったです。
子供の誕生と自分の死。

なによりその場面が一番印象的です。
生命の神秘を感じたラストでもありました。
どう生きて、どう自分で決着つけるのか・・・
そこが一番重くのしかかりました。
静人・・・・、従兄のホームページをみても、
それでも母の異変に気付かないあなた。
病気なんてしそうもない母親だ・・・と言い切るあなた。
そういう彼の姿を思い浮かべながら
最後の箇所を読み進めると
悲しくてしょうがありませんでした。
お母さんはきっと待っていたのでしょうに・・・・。
亡くなってから悼んでも・・遅いのでは。

そんな感想をもった本でした。

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みみこさん、こんにちは~。コメントありがとうございました。
なんか、文章からすごくみみこさんの「納得いかない」怒りが伝わってきます・・・。
私も、もし自分が静人の家族の立場だったら耐えられないかも。
特に自分が瀕死なのに、息子に連絡がとれず会えないまま・・・なんて辛過ぎる。
巡子の、死を受け入れて旅立つラストは感動的でしたね。
天童さんってすっごく寡作な方ですよね。
真面目な人なんだろうな、と、思います。。

みみこさん、こんにちは!
うん、うん、そうだよな~って、みみこさんの感想読みながら、細かい部分が蘇って来ました。で、みみこさんも、違和感感じた部分があった・・・っていうの、ほっとしたわ~。
凄く絶賛されていたし、私って冷たいのかな・・・?とか、もうちょっと人生経験詰んだら解る部分があるかも・・・って思ったんだけれどもね・・・
天童さんが、すごく思い入れあって書いたっていうのは、伝わって来たのだけれど・・・

やっぱり一番辛かったというか、なんというか・・・なのは、お母さんのところだよ・・・(T_T)
みみこさんも最後に書いているよね・・・。

PS アシュリーちゃん、知っていたのね?^^ 彼女の場合は、外見からハッキリ重い病気だ!ってすぐ解るだけに、辛さも並々ならぬものだったと思うわ・・・。その同じ病気を患っていた彼氏も、確かロッカーというかパンキッシュな皮ジャンとか着てバンドとかやってる男の子だったな・・って思い出してね・・・

真紅さんへ

こんにちは。
なんだか全体的に辛口の感想になってしまいましたが
けっしてつまらない作品ではなかったのですよ。
むしろ読み応えあったし、
どう展開するのか興味があった作品でしたよ。
いろんな思いを感じ取ることができるっていう作品は
やっぱり魅力的ですよね。

この作品では静人の家族というのを
どうしても語りたくなりますね。
親の立場でみてしまうから・・・。
彼には親孝行、してほしかったです。
<巡子の、死を受け入れて旅立つラストは感動的でしたね。>

はい★、思わずぐ~~ときてしまいました。
つらかったのですが・・・。

<天童さんってすっごく寡作な方ですよね。
真面目な人なんだろうな、と、思います。>

同感です。
あとがきもとても真摯に書かれていて。
次回作も是非ともと思ってしまいます。

latifaさんへ


やっぱり、実際に静人のような方が
現われて、私が遺族側の関係者なら
う~~ん、すんなり受け入れられないと思うのですよね。
純粋な気持ちで・・・というのを理解しようにも
この世は汚れすぎているし・・・・。
なにか裏があるのではと思ってしまう・・・
そんな自分がいやなんだけどね。


<凄く絶賛されていたし、私って冷たいのかな・・・?とか、もうちょっと人生経験詰んだら解る部分があるかも・・・って思ったんだけれどもね・・>

いやいや・・冷たいなんてことないよ。
私も同じ感じだし・・・・★

<やっぱり一番辛かったというか、なんというか・・・なのは、お母さんのところだよ・・・(T_T) >

そうそう。
お母さん可哀そう。
待っていたのに・・

<アシュリーちゃん、知っていたのね?^^ 彼女の場合は、外見からハッキリ重い病気だ!ってすぐ解るだけに、辛さも並々ならぬものだったと思うわ・・・。>


そうよね。
早くから自分の運命悟ってしまうんだもの。
自分と同じ病の仲間がいて
本当良かったと思うわ。
いずれ別れがこようとも、心を割って話せる人がいたんだもの。
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