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砂の上のあなた   著  白石 一文

砂の上のあなた   著  白石 一文




亡くなった父親には愛人がいた。
美佐子のもとに鎌田浩之という男から突然連絡がきた。
自分の母親と君の父親は愛し合っていて、両者亡くなった今、遺骨を一緒にさせてほしいという・・
それぞれの願いだったということだが・・・。




感想


白石さんの直木賞受賞後の作品。
前回に比べると、哲学的な要素が、かなり色濃く出ており、好き嫌いもわかれると思いますが
今回も、面白く読むことができて満足。
もちろん、いつも思っていることですが、共感できた・・・という意味では全然ありません。
そういうものの考え方もありなのね・・・と、いつもはっと・・してしまう・・
そして、そうしたことで得られる満足感が素晴らしいということです。


ちょっと「私という運命について」を思わせる展開。主人公は女性ですしね。

父親に愛人がいた・・という衝撃的な事実からこの物語は始まりますが、
それはあくまでも、きっかけにしかなく・・・
どんどんと、予期せない方向に物語は発展していきます。


根底にあるのは
なぜ、私たちはここに存在しているのか、どう生きるのか・・
そして、死と生と・・男と・女と・・・
延々と続く、奇妙な縁・・
そんなようなことだとは思うのですが、
なかなか難しい・・・・笑

作者の作品を読んでいるといつも
こういうセリフを、物語の登場人物に言わせたいがために
こういう物語を作ったのではないかと思うことがたびたびあります。
言わんとしているテーマ性を必ず用意したうえで、物語が進んでいくんですよね。
そのテーマがかなり考えさせる、重さをもったものばかり。


単なる恋愛小説にはなっていない・・・のよね。



今回は
後半にむけて登場人物がかなり多くなって厄介です。
相関図を描いて観た方がよいかもしれないと思ったほど・・



主人公は美砂子。父親は周一郎。(この父親東大出だったかな・・・相変わらず優秀です・)
その父親は、長年妻のほかに、東条紘子という女性と付き合っていた(つまり愛人)
実は周一郎、若いころ一度結婚していたそうだ。
その時の妻の名は、由紀江。しかし、妻、由紀江はお産時に亡くなってしまう。同時に子も一緒に。
周一郎はその後、美砂子の母親と結婚し、美砂子のほかに2人の娘を授かったということだが
過去に死んだ妻子のことが長年気になっていたようだ。
そんなときに、偶然出会ったのが、東条紘子という女性。お店を経営しているママさんだが
死んだ昔の妻にそっくりだというのが、付き合い始めた経緯みたいだった。


そしてある日、その東条紘子が母親だったという男、鎌田浩之という男性から美砂子のもとに連絡が入る。
父親周一郎の骨と自分の母親の骨と一緒にしてほしいと。

不審がっている美砂子だったが、夫、直志の相談すると、特に問題ではないんじゃないかと。
双方の希望ならばかなえてやっていいんじゃないのか・・という。
実は悩まなくてはならない問題は、自分たち夫婦の方に存在していたのだ。
美砂子と直志は子供がいない夫婦だった。美砂子は父、周一郎が亡くなった後、無性に子供が欲しくなり
直志と試みるが、なかなか良い結果が得られないでいた。
欲しいのに得られない・・・、そのことで夫婦関係にも微妙な空気が流れだしていたのだ。
そんな思いもあり、
鎌田浩之という男と遺骨のことで話し合いを続けていくうちに、男と女の関係を結んでしまうことに・・・。


あれ~~~じゃあ、結局、不倫話なの?ということに思えるかもしれないけど、
そうじゃないのよね。


父親、周一郎にかかわる背景だけでもものすごく、↑字数を使ったけれども
まだまだ、美砂子の過去・・・鎌田浩之の過去・・そして正体。
夫、直志が隠していた真実・・・
まあ・・・とにかく、ものすごく意外なことが、ザクザクでてくるんですよね。


さらに、繋がりです。縁です。美砂子にかかわっている人々が、皆、奇妙な縁で結ばれているという事実。
ここはもう、実際問題として、やりすぎではとおもうほど、偶然のつながりが
あります。
ただ、こうまでして強引につなげているのは、
言いたいことが明白であるからなんだろうな・・・と思います。



この小説では
子供のついての考え方が語られるのですが、ここが興味深いところ。




美砂子が子供を欲することに、意欲を燃やしていることに対して、
遺骨のことが縁で知り合い、のちに男女の関係を結んでしまう
鎌田浩之はこういうんです。

「どうして子供なんて産みたいの?」
子供なんて作らない方が良い。誰一人親にならない方がいい」と

それってどういうこと?と思いますよね?勝手にそんな無責任なことをいって。
しかし、彼には彼の考え方があるんです。
どういうことかというと。


そもそも、子供を欲しがるということは、命を誕生させたいという思いからだと。
人は誕生と死を一体だと思い込んでいる。
自分が死に絶えたあとも生き続ける若い命を誕生させたいという思いから、子供を産みたいと
欲している。
しかし、死と誕生はまったく別のものである。
俺たちのこの人生そのものが無限に繰り返される「誕生」なのだから。
人間という種の決定的な後進性っていうのは人生の価値に対する客観的な視点を持ちえるだけの頭脳を
せっかく与えられ、しかも自分の命の終わりである死についてもそれなりの
自覚を生前からもつことができるにもかかわらず、いまだ生殖・繁殖という未開で動物的な衝動を抑制できないということ(P、92から、だいたいの内容)

なんだ・・・そうです。鎌田浩之は美砂子のことを理屈っぽいといっていたけれど、鎌田の方が
かなり理屈っぽいですよね。

正直、こういう考え方を言われても、ピンときません。
誕生と死・・・確かに一つの繋がりとして、私も、みているところがあるからです。
子供に幾分かの期待と、夢をかける・・
そうやって供を産み、育てているところが多いにあるからです。
そもそも、子を持っている人と、持っていない人では
この小説のある子どもに関する部分については
感想が大いに違ってくるでしょうね。


最終、
美砂子は子供について
大きな決断をします。鎌田浩之を巻き込んで。
これ・・、納得できる決断ではないです。
好きな人の子供を持つ・・小難しい考えのもとではなく、
単純だけれど、率直な感情を、大切にしていった方がよいと思うんですよね。
もちろん、子供ができないということの、苦しみがどれほどのものかは
実感できないので、立場としては、美砂子と違いますが
だからといって
この美砂子の決断には、はいはい・・そうですよねと、
すぐさま、繋がっていかないと思うわ。


まあ・・・いろいろ思うところもありの小説でした。


相変わらず、美味しそうな料理もたくさん出てきます。

白身魚のカルパッチョ、
カリフラワーとハムのいためもの、
大皿にもられたペンネ
一番印象的なのが
ピーナッツバターでいためた、ペンネですよ。


料理もそうですが
女性の体の微妙な変化も
明白に描いていて
作者が男性とは思えないのも素晴らしいですね。


sunanoueno.jpg
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他生の縁~『砂の上のあなた』

 35歳の主婦・美砂子は、実を結ばない不妊治療に焦りを感じ始めていた。ある 日、彼女は鎌田浩之と名乗る男に呼び出される。  温厚篤実で社会的地位も高く、誰よりも自分を愛してくれた亡き父に愛人が...

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みみこさん、こんにちは! コメント&TBありがとうございました。
白石さん、ますます絶好調ですよね、理屈っぽさが(笑)。
私もとっても面白く読みました。人物の繋がりが、ちょっとやり過ぎ?って部分もあったのですが、「縁」と「運命」っていうことを強調したかったのでしょうね。
白石さんは、どうしても女性に子どもを産ませたいんですよね。それは毎回感じることです。
子どもがいなくても夫婦仲良く、幸せに暮らしている友人もいるので、そこはちょっと相入れない部分もあるのですが。。
でも、それも一つの意見として受け止めている感じです。
これからも新作が出たら必ず読みたいです~。

真紅さんへ


こんにちは。
レスものすごく遅くなってすみません。
この作品も面白かったですよね。
理屈っぽいの好きです。
確かに人物つながりは
しつこいかな・・・って思います。
そんな偶然が。。。って突っ込みたくもなりますが。

子どもについての考えはいろいろですよね。
持てない人もいますしね。
反感をもつ人もいるかもしれませんよね。

そうですね・・・でもそれも一つに意見として・・
私もそう理解して
これからも
追い続けていきたいです。

あ・・今日、ノルウェイ・・行ってきました。
雰囲気は良かったですよね。原作のイメージに近い感じでした。


またあとでお邪魔します~~
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